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札幌高等裁判所函館支部 昭和35年(ネ)38号 判決

控訴人 被告 斎藤秀雄

訴訟代理人 土家健太郎

被控訴人 原告 北海道信用保証協会 代表者理事 田中時次郎

訴訟代理人 臼木豊寿

主文

原判決を次のように変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金一七六、二二一円及びこれに対する昭和二七年七月三一日から完済まで、年五分の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟の総費用はこれを六分し、その五を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審において、被控訴人が、「信用保証協会の保証は、制度上主債務者が金融機関から貸付を受けるに際し、その信用を保証するものであり、たんなる債務の保証である民法上の保証とは異なり、これらと同列に立つものではないから、信用保証協会は代位弁済した後は債権者の地位を承継して代位弁済の全額につき、主債務者に対してはもとより他の保証人に対しても、その保証債務の履行を請求できるものである。なお、日之出漁業罐詰株式会社(以下日之出株式会社と略称)の株式会社千代田銀行(以下千代田銀行と略称)に対する債務の保証人が控訴人主張の六名であつたことは認める。」と述べ、控訴人が「仮りに被控訴人主張のごとく控訴人が日之出株式会社の千代田銀行に対する債務について保証したとしても、その保証人は控訴人、被控訴人のほか、訴外山田万平、松原良夫、谷藤茂三郎、佐久間要一の合計六名であるから、控訴人の負担部分は被控訴人の代位弁済額の六分の一にすぎない。」と主張し、被控訴人が甲第一三、一四号証を提出し、控訴人が控訴本人の当審供述を援用し、甲第一三、一四号証の成立を認めると述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一、信用保証協会が主債務者日之出株式会社の千代田銀行からの借入金の保証をし、その保証債務を履行したこと。

証人本多茂三の証言により成立を認める甲第一号証、成立に争のない甲第二号証の一、いずれも作成名義人の署名押印の成立に争がないので文書全体につき真正に成立したものと推定する甲第六ないし第八号証、原審証人本多茂三、同大門昭一、同田中健一(第二回)、同松原良夫(第一、二回)の各証言を綜合すると、日之出株式会社は昭和二六年一一月一九日千代田銀行から、金一五〇万円を弁済期昭和二七年一月一九日、利息日歩二銭六厘の約定で借受け、その際右借入金につき社団法人北海道信用保証協会(以下信用保証協会と略称。被控訴人北海道信用保証協会はその総資産をもつて信用保証協会法により設定されたものである)が千代田銀行に対して保証をするとともに、そのころ日之出株式会社が右協会に対し日歩一銭一厘の割合による保証料を支払う旨約したことが認められ、日之出株式会社が千代田銀行に対し、昭和二七年三月一四日右借入金のうち金五〇万円及び同年一月一九日までの利息の支払をしたことは被控訴人の自陳するところであり、原審証人本多茂三の証言及び同証言により成立を認める甲第四号証によれば、信用保証協会は千代田銀行に対し、昭和二七年七月三〇日残債務すなわち元本残金一〇〇万円及び昭和二七年一月二〇日から同年七月三〇日までの日歩二銭六厘の割合による遅延損害金五七、三三〇円を支払つて保証債務の履行をしたことが認められる。

二、控訴人が主債務者日之出株式会社の千代田銀行からの借入金の連帯保証をしたこと。

前出甲第一号証、甲第二号証の一、甲第六ないし第八号証、控訴人の署名押印の成立に争がないので文書中控訴人に関する部分につき真正に成立したものと推定する甲第五号証、原審証人本多茂三、同田中健一(第一、二回)、同松原良夫(第一、二回)の各証言を綜合すれば、日之出株式会社は千代田銀行から昭和二六年一月一三日に金三〇万円、同年二月二七日に金一五〇万円、以後三回にそれぞれ一五〇万円宛融資を受けたこと、右四回にわたる各一五〇万円の融資の際右銀行の要請により日之出株式会社は信用保証協会の保証を得たこと、その際右協会は日之出株式会社の役員が千代田銀行に対し個人連帯保証をすることを条件としたので、日之出株式会社代表者松原良夫は会社役員であつた控訴人はじめ他の役員に会社の銀行からの右借入金につき連帯保証することを要請した結果、控訴人は右銀行に対し昭和二六年二月一七日保証書(甲第五号証)をもつて、日之出株式会社が千代田銀行に対して負担し、または将来負担するべき債務につき、一五〇万円を限度とし期限を一ケ年として日之出株式会社と連帯して保証する旨のいわゆる根保証をしたこと、以上の事実を認めることができる。控訴人が千代田銀行に対して連帯保証をしたことは控訴人の極力争うところであり、控訴本人の原審及び当審における各供述によれば、控訴人が保証書(甲第五号証)に肩書住所を記載し署名押印したのは、東京から函館に移転していた日之出株式会社の本社をさらに東京に移転するのに必要だということで白紙に記載したものであるというけれども、控訴人が甲第五号証に署名押印した当時すでに白紙ではなく右書面が保証書として他の記載もなされていたことは、原審証人本多茂三、同田中健一(第一回)、同松原良夫(第二回)の各証言により認められるところであるし、また公文書として真正に成立したと認める甲第九号証、成立に争のない甲第一〇号証によれば、日之出株式会社が東京に本社を移転したのは昭和二四年六月二五日であること、東京からさらに函館に移転したのは昭和二八年五月四日であること、従つて控訴人が甲第五号証に署名押印した昭和二六年二月一七日当時は、日之出株式会社の本社は東京にあつたことが認められるから、控訴本人の前記供述は右事実にも矛盾するものであつて到底信用することができないものであり、他に前記事実認定に反する証拠はない。

三、信用保証協会の控訴人に対する求償権の範囲

被控訴人は信用保証協会の保証は、制度上主債務者が金融機関から貸付を受けるに際し、その信用を保証するものであり、たんなる債務の保証である民法上の保証とは性格を異にしこれらと同列に立つものではないから、信用保証協会は代位弁済した後は債権者の地位を承継して代位弁済の全額につき、主債務者に対してはもとより他の保証人に対してもその保証債務の履行を請求できるものであると主張する。しかし信用保証協会の千代田銀行に対する本件保証は、信用保証協会法(昭和二八年八月一〇日法律第一九六号同日施行)により被控訴協会が設立される以前の契約で、当時右協会は民法第三四条の規定により設立された社団法人であつたから、その業務内容である保証料を得てする他人の債務の保証が、制度上民法の保証と要件、効力を異にする別個のものとは解されないのみならず、信用保証協会法施行後においても同法においては、信用保証協会制度の設立の目的につき同法第一条に、「この法律は、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付等を受けるについてその貸付金等の債務を保証することを主たる業務とする信用保証協会の制度を確立し、もつて中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的とする。」旨規定し、さらに信用保証協会の業務内容につき同法第二〇条に、「中小企業者等が銀行その他の金融機関から資金の貸付、手形の割引又は給付を受けること等により金融機関に対して負担する債務の保証」等を規定しているにとどまり、「債務の保証」の内容については特段の規定を設けていないのであるから、その要件及び効力については特約のないかぎり当然民法上の保証の規定によるべく、それが制度上信用の保証であつて債務の保証ではないから、民法上の保証とは異なるという法律上の根拠はない。

従つて、信用保証協会が保証債務を履行した場合の他の共同保証人に対する求償権の行使は、信用保証協会と共同保証人との間において右求償権の行使につき特別の契約がなされたときは、その契約に基き求償権を行使できるが、右のような契約がない場合には、各保証人の分別の利益の有無により区別し、分別の利益を有しないときは民法第四六五条第一項第四四二条により、分別の利益を有するときは同法第四六五条第二項第四六二条により求償権を行使できるにすぎないのである。

本件において、被控訴人はまず日之出株式会社の前記借入金につき、控訴人は千代田銀行に対して連帯保証をする一方、信用保証協会に対しても同協会が千代田銀行に対する保証債務を履行したときは、その代位弁済金を支払う旨約したと主張するけれども、控訴人が信用保証協会との間において被控訴人主張のごとき特別の契約をしたことを認めるに足る証拠はない。よつてすすんで各保証人の分別の利益の有無につき判断するに、信用保証協会及び控訴人が千代田銀行に対し日之出株式会社の債務を保証するに際し、特に分別の利益を放棄(保証連帯)したと認めるに足る証拠はないけれども、日之出株式会社の千代田銀行に対する債務は会社の営業のためにする借入金として商法第五〇三条により商行為に該当するから、その保証は同法第五一一条により連帯保証となることは明らかであり、他方控訴人の保証が連帯保証であつたことは先に認定したとおりであるから、かかる場合においても共同保証人は分別の利益を有しないものと解すべきである。従つて信用保証協会の控訴人に対する求償権の行使は民法第四六五条第一項第四四二条によるべきところ、日之出株式会社の千代田銀行に対する債務の保証人が信用保証協会及び控訴人のほか、訴外山田万平、松原良夫、谷藤茂三郎、佐久間要一の合計六名であつたことは当事者間に争がないから、特約の認められない本件の場合各保証人の負担部分は平等の割合として各六分の一となるから、信用保証協会の控訴人に対する求債権の範囲は、控訴人の負担部分すなわち主債務金一、〇五七、三三〇円の六分の一である金一七六、二二一円及びこれに対する代位弁済の翌日である昭和二七年七月三一日から完済まで年五分の法定利息金の範囲にとどまるものと考える。

四、未払保証料の請求について。

被控訴人の本件請求のうち、未払保証料請求に関する部分は、被控訴人の主張自体によつても控訴人にその義務のないことが明らかである。

五、結論

以上の次第で信用保証協会は控訴人に対し金一七六、二二一円及びこれに対する昭和二七年七月三一日から完済まで年五分の割合による法定利息金の債権を有するところ、被控訴協会が信用保証協会の権利義務を承継して設立されたことは当事者間に争がないから、結局被控訴協会の控訴人に対する本訴請求は右の限度で正当として認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。よつてこの範囲で原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 船田三雄 裁判官 浅野芳朗)

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